Aくん(小2)の変容
1.合宿前のAくん
お母さんが、短大で困ったからということで、彼には小さいときから何でも学ばせておかなくてはの思いで、1週間休むことなく何らかの習い事に通わせていたそうです。家でも、お母さんが、彼の机にノートを開いて鉛筆を置き、「A、勉強しなさい」と言うと、「はーい」と素直にそれに応じていた、“いい子”のAくんでした。素直で従順…これは、我々から見たら、心配なお子さんということになります。いわゆる、自主性/主体性の面から考えると、それがよく発達しているとは言えないからです。
2.キャンプ中の様子
(1)最初の数日
初日から数日は、彼は「自由」の中に置かれて、自分で何をどうしたらいいかわからず、ブラブラして過ごしました。ときには、私の近くに来て、「つまんない」とこぼしますが、私からは「あら、そうなの?自分でやりたいこと、やっていいんだよ」と言って、あえて何かの遊びに誘うことはしません。このような子どもは誘われるとそれに乗っかってしまうことになりかねないからです。そして、「じゃあ、ボクは遊びで忙しいからね」と言ってその場を離れます。我々自身、楽しく遊んで見せます。…この数日間、彼は周りの様子をうかがいながら過ごしていたようです。
それでも、みんなの動きに合わせて川に行ったり、沢登りに少し挑戦してみたり…それなりに経験を重ねていたようです。
3日目の夜のことだったか、9時頃、キャンプ経験者の子どもとやってきて言うのでした、「ボクたち、これから徹夜するんだ」と。「ほう、それはおもしろそうだね。ボクはスタッフ・ミーティングだから、それが終わったら行くからね」「うん」ということで、彼が自分の意思で動き始めたのでした。
(2)キャンプ中のその後の様子
スタッフ・ミーティング後に行ってみると、案の定、すっかり二人とも夢の中でした。日中にそれなりに動いていると、そう簡単に徹夜できるものではないのです。
山形でのキャンプでは、5年生の男子が貫徹しました。雨が続いて、それほど外遊びがしっかりできにくい日々だったのです。…そうして帰宅した彼は、出会う人ごとに「あのね、ボク、徹夜したんだよ」と得意げに話し出し、相手が「へぇ、そう」などと聞いてくれると、「でもね、徹夜したって、ちっともおもしろくないんだ」とも語っていたそうです。つまり、夜は寝て、昼間にしっかり遊んだ方がもっとおもしろいとわかればそれでいいということです。
Aくんは、その後、靴も靴下もはかなくなりました。それまでは、町中にいるような感じで、しゃれたハイソックスとズックを履いていたのですが。…両足の親指をケガしてくれたので、消毒しながら、「やっぱり靴は履いたといたほうがいいんじゃない?」と言う私に、「ううん、ボクはこれでいいんだ」と言って遊び回りました。結局、靴も一足忘れて帰ったAくんでした。
お風呂に入って、着替えたばかりの服のままプールに飛び込んだり、高い石垣の上から小便をとばしたり、…たぶん普通なら叱られそうなことをいろいろと試していたようです。もちろん、それ以外のことでは、竹の箸づくりに熱中し、家族の分だけでなく、我々スタッフにも作ってくれました。ちょっとした模様入りの工夫までして。
3.帰宅後のAくんは…
夏休み中も習い事がいっぱいのAくんだったはず。確か、書き方教室で、そこの先生に彼は「ボクは今日でやめます」と言って帰ったそうな。帰宅した彼は、電話をもらっていたお母さんから責められます、「何でそんなこと、言ったの」と。彼は、「だって、自分のこと、自分で考えて自分で決めていいんだろ」と。初めて口答えされたお母さん、カチンときて、「あんたなんか、出て行きなさい」と言ってしまったらしい。Aくんは「わかった」と言って出て行ってしまい、今度はお母さんがオロオロ。それもつかの間、Aくんが帰ってきたらしい。お母さん、安心したのも束の間、「暑いから、帽子を取りに来た」と言って、帽子を掴んでまた出ていったとのこと。
実際、キャンプ後のAくんは、おもちゃ屋であった彼の家のテレビゲーム目当てに遊びに来る子どもたちがいたが、その電源を引っこ抜き、川遊びなどに出かけていく、そんな子どもに変化していたらしい。
2学期が始まり、参観日の保護者懇談会後に、担任から「お母さん、Aくん、この夏休みに何があったんですか?」と問われ、「うちの子、何かしたんですか?」と不安げに問うお母さんに、「そうです。Aくんは自分から手を上げて、係の仕事を引き受けたんです」と。…1年生のときから担任していた先生だったので、彼のその変化を見逃さず、この質問となったらしい。…お母さんは、夫とも、「これでいいんだよね。これでいいんだよね」と確認しながら、何とかその成長を見守れるようになっているらしかった。だから、「Aがどんどんたくましく育ってくれているようで、うれしい反面、私からはどんどん遠ざかっていくようで、うれしいようなさみしいような複雑な気持ちです」と語ってくれました。
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