チャレンジ・キャンプでの自由献立顛末記
小学生20名あまりとほぼ同数の学生スタッフとともに、1週間の合宿を実施しておりました。その合宿では、食事をスタッフが当番制で用意する以外に、子どもたちが自分たちで考えてつくる自由献立なるものがありました。事前に子どもたちには共同生活者としてこの合宿をともに楽しみたいと考えていることなどを伝え、その上で、子どもたちにも、夕食1回分を自分たちでメニューから考えて買い物もして、それを自分たちでつくって食べるということをやってもらえないだろうかとお願いし、子どもたちからも了解をもらってのことでした。
合宿の後半に入ったある夜のことです。あるグループは、スタッフがミーティングをしている間に自分たちも翌日の献立の話し合いをしたようでした。しかし、一部の子たちからの不満の声が漏れ聞こえてくることとなったのです。そのグループ担当のスタッフが、翌朝買い物に行く前にもう一度話し合いをしようと呼びかけました。が、前夜話し合いをまとめようとがんばったYちゃん(小5)は、「みんなはちゃんと話し合ってくれないから」と集まろうとはしません。ほかの子どもたちが誘いに行って、何とかメンバーがそろいました。
スタッフが話し合いを進行させます。「昨日のみんなの話し合いでは、スパゲティとゼリーとジュースということに決まったらしいけど、本当にそれでいいの?……A子ちゃんは?」「B子ちゃんは?」「Cちゃんは?」「Dちゃんは?」と、一人ひとりに確認していきます。しかし、特に高学年の女児の中には、このような集団の中で自分の意見を主張しない子どもも含まれたりします。そうしながら、最後に2年生の男児Fくんのところにやってきました。彼はマンガに目を落として、顔を上げないままです。スタッフが言います、「Fくん、話があるんだけど、マンガを置いてくれる?」と。すると、それに応じたFくんにスタッフは「マンガを置いてくれて、ありがとう。それでね、昨夜の話し合いでスパゲティとゼリーとジュースということに決まったらしいけど、Fくんは本当にそれでいいの?」とあらためて尋ねます。彼は小さい声で、「本当はほかのが食べたいんだ」と言います。そのスタッフは、「ちゃんと自分の気持ちを言うことのできるFくんなんだ。それで、Fくんは何が食べたいの?」と返すと、先ほどよりは少し表情が明るくなった感じで、「ボク、ホットケーキが食べたい」と言います。「ああ、そうなんだ。ホットケーキが食べたいのね。じゃ、そのこともみんなに確かめてみようね」と、今度はほかの子どもたちに「Fくんはホットケーキが食べたいんだって。みんなはどう?」と返しますが、ほかの子どもたちからは、「ほかのグループも作るって言ってたよ」とか「この前のお昼に食べたじゃないか」などと反論されてしまいました。それをFくんに「みんなはあんなふうに言ってるけど、Fくんどうする?」と返すと、彼はしょんぼりしながらうつむき、「でも、やっぱり食べたいな、ホットケーキ」とつぶやきます。スタッフは、「そうかあ、困ったなあ。……みんなのいうスパゲティとゼリーとジュースも食べることができて、Fくんのいうホットケーキも食べることのできる方法はないかなあ」とつぶやきながら考え込みました。
それを聞いて、Yちゃんがすぐに動きました。前夜、彼女なりに計算していた段ボールを引っ張り出してきました。あらためて計算します。しかし、計算間違いもなければ、一人あたり300円の予算では足りないことをみんなで確認したようです。考えたYちゃんが提案します、「ジュースをなしにするのは?」。スタッフがほかの子どもたちに諮ると、「ボク、飲みたい」という子がいて却下されます。「じゃあ、ゼリーをなしにするのは?」というさらなるYちゃんの提案も「私食べたい」と却下されました。なかなかこの問題を解決する方法が見つかりません。困り果ててしまった子どもたちでした。またまたYちゃんの提案がありました、「あのね、私たちこれから買い物に行くんだけど、先にスパゲティとゼリーとジュースを買って、それでお金が余ったらホットケーキも買うというのではどう?」と。スタッフが、その提案を子どもたち一人ひとりに確かめます。それぞれが賛成し、肝心のFくんも「いいよ」と同意しました。「じゃあ、それでいいんだね」と全体に念押ししますと、子どもたちから元気な「いいよ!」が返ってきました。
このような解決の仕方が子どもたちにできたということにそのスタッフが感動している間に、6年生の男児が以後の進行を引き受けて、スパゲティをゆでるときの火の担当や麺をかき混ぜる担当など、自分たちで決めていきました。ホットケーキを焼くときの火の担当には、Fくんが希望すると、弱火を長く続けるために、高学年の子どもがペアになるなどの工夫もしていました。
買い物に行ったYちゃんたち3人の女の子は、バーゲンセール中の袋詰めのゼリーを買って、ホットケーキも買い、おつりも残して、「私たち、買い物うまいよね」と言いながら戻りました。
作り始めたこのグループでは、それぞれが自発的に協調して分担の仕事をこなしていきます。余ったスパゲティも、塩こしょう味や醤油味などと試しながら、食べてしまいました。2時間以上かけて食事を楽しみ味わいました。Yちゃんたち女の子が、最後のゼリーを食べながら、「私たち、このグループで良かったねえ」と言って肯きあっておりました。