(6)民主的な親子関係のあり方と、責任感と協調性を育てるかかわり方とは?
そのかかわりの“玉石混淆”状態を整理する効果的なプログラムとして、アドラー心理学に基づく「親学習プログラムSTEP」があります。
保護されねば生きていけない存在としてこの世に生を受ける子ども、その最初の関係性はタテにならざるを得ませんが、子どもの成長と発達につれて、その関係性をヨコにしていく必要があります。児童期までの子どもを持つ親のためのプログラムが「親学習プログラムSTEP」です。民主的な関係性で、子どもに責任感と協調性をもつ育ちを支援するために、“責任感ある親”を務めることを学習するものです。
低-中学年までにその切り替えがうまく進むことにこしたことはありません。さらなるティーンエイジャーの親のためのプログラムが「親学習プログラムSTEP/teens」です。青年期に突入しての変革は、親子ともどもそれなりに大変です。「ごめんなさい」では済まされないような出来事に出くわすことになります。それでももちろん効果は期待できます。成人した子どもとの関係変革をなし得た保護者もおります。
いずれにせよ、自立へ向けて、子育ても教育もことを進めなければなりません。そのためには、かなり意識的に関係性を大人側から変革していくことが求められます。
システム論では「コミュニケーションそのものがシステムをつくる」と考えますが、普通の子育てでは“ほめる・叱る”のコミュニケーションが一般的です。実は、このコミュニケーションがタテの関係性/システムを維持・強化します。
STEPでは、民主的な関係性で、“ほめる・叱る”に替わるコミュニケーションを学ぶことになります。つまり、民主的な親子関係のあり方という理念とともに、そこでなされるべきコミュニケーション技法(方法)を、ワンセットで学ぶことができます。
その際、大きなポイントの一つは、保護されていた子どもも自分で自分のことができるようになっていきますので、“子どもの問題”はその発達につれて子ども自身に返すということです。いつまでも、親や先生がそれを取り上げてやってあげている限りにおいて、それは自立を損なう支援ということになります。多くの親は、その面倒を見てあげるのが親の務めといわんばかりに余計なお世話をし続けているようにみえます。
また、もう一つのポイントは、アドラー心理学をもとにしていますので、「好ましくない言動」が見られたとき、その原因ではなく、その言動の目標に注目して基本的対応を選択します。そのような場合、“勇気がくじかれている状態”と理解しますので、もちろん“ 勇気づけ”をていねいに積み上げます。たぶん“ほめ・モヤモヤ感”を感じておられる方は、“ほめる”に含まれるタテの関係性やコントロールしようとするニュアンスなどを感じ取れる方なのかもしれません。
そうして、勇気がくじかれている状態から脱することができたとき、好ましくない言動も採る必要のない子どもとしてやっていくことができると考えています。“勇気づけ”は“ ほめる”に替わるアプローチと言えます。
失敗に対しても、それが子ども自身の問題ならば、叱ったり注意したり教えたりするのではなく、「残念だったね」と気持ちを反映し、「次はどうしようと思うの?」と、子どもの試行錯誤につきあいます。
失敗が「親の問題」に及ぶのであれば、「そんな言い方されると、お母さん、とても悲しいよ」などと、“I-メッセージ”で対応することができます。自分の感情を表現できていることは、自分を尊重できているということです。相手に「…しろ」とか要求していないで、それを受けとめたその相手が自分で考えて決めることができるということは、相手をも同時に尊重しているということです。つまり、“I-メッセージ”は、相互尊重のコミュニケーションなのです。さらに、選択の余地を与えることもあります。
教師-子ども関係の変革にも⇒ 子ども間の関係性の変革⇒ どの子も良く育つ
“親”を“教師”に読み替えて公立小学校での実践は、3 年間の積み上げを通して、“いじめ”“不登校”がなくなっただけでなく、子どもたちには、高い学力(知)と高い自己肯定感と本来感(情)に支えられた高い主体性(意)が育ちました。かつ、その平均値の高さだけでなく、クラスによっては、SD(標準偏差)も小さく、つまり、発達障害などを抱えていても家庭内の問題を抱えていてもどの子もよく育つということを実現することができました。つまり、SDGsの目標4を達成できるということです。
子どもがよく育っただけでなく、教師も保護者も自分たちのかかわりを自己修正する力をもっているということも教えていただきました。
簡単に言えば、さまざまな教育改革が行われていますが、残念ながらその教師の日常的かかわりは、「20世紀の教育」が続いています。“ほめる・叱る”教育です。21 世紀が1/5過ぎてしまった今日、一日も早く、「21世紀の教育」を創造したいところです。